siwee 10

田舎暮らしを毎回10分にて

僕が田舎で暮らすまで 7

つづき


僕には弟が二人いる。そのうちの一人は事故で障害を負っている。きちんとした仕事についているし、年収もなかなかのもの。


家も障害者用に改築しているし、暮らしていくのに不足はないだろう。

しかし、実家に帰るたび、何か暗い雰囲気を感じていた。その正体はわかっている。本人や、共に暮らす両親の不安だ。そして事故以降、もともと、高いプライドと被害者意識と自分への美化意識を潜在的に持っていた弟は、それを一気に発現させた。そして、それを腫れ物にさわるかのようにしか扱えない我々。



僕は離れてくらしていたが、両親のつらさは相当だっただろう。


事故以降、帰省しての生活を提案した僕に、母はこう言った。


今まで通り東京で暮らしてほしい。今の弟が自分のために誰かが生活を変えたと知ったら潰れてしまう


ずっとこの言葉に甘えてきた。


しかし、そうも言ってられないな、と感じ始めた。弟のリハビリは順調にすすみ、障害のこともだんだん受け入れられるようになっていく。しかし、それと同時に、目のなかに卑屈なねじれみたいなものが沈殿していくのも見てとれた。それは一緒に暮らす両親も蝕んで行っているように見えた。



障害者が障害を受け入れるようになっていくにつれ、周りへの感謝を覚え、人当たりがやわらかくなり、新たな道を自分で見つけ、生まれ変わったように前向きになり、周囲も感化されていく。なんて、24時間テレビのジャニーズのプロモーションのために作られたドラマの中だけの嘘だと思っていたが、まさにそうだ。


弟は折れていた。仕事も失わなかったし、家も保険金で改築された。でも、完全に折れていた。


そう思ったのは、弟の行動からだ。人が手をあげるとびくつくふりをしはじめた。幼い頃、両親に暴力的に育てられたので、人が手をあげるのがこわいそうだ。自分のような障害者はいつ捨てられるかわからないから常に謙虚に明るくしている、などといい始めた。とにかく、自分は以前からこれまで被害を受けてきたがけなげに生きている、というようなスタンスをとりはじめた。その瞳の奥には、傷ついた人の痛みよりは、卑怯ものが、自分の傷を盾にして両親をいびっている空気が流れていた。そう考えるのには勇気がいった。。。



本格的に地元に帰るタイミングを考えはじめた。自分が必要とされるとは思っていない。しかし、このままだと弟は、全てから見放されたようの気持ちで過ごすんじゃないか、そんな気持ちになった。


つづく